2026年に予定されているISO 9001の次回改訂について、2024年11月の時点で判明している情報をまとめます。
2026年に新しいISO9001が発行される予定
ISO 9001は品質管理の国際規格として多くの企業に利用されていて、次の改訂にもちょっとずつ注目が集まっていますね。ISOの公式からも、2026年に新しいISO9001が発行される予定だと、公式発表がありました。
そこで今回は、これまで行われてきたISO 9001の改訂の経緯を説明しつつ、次回の改訂でどんな部分が変わるのか、私の予想を解説していきたいと思います。
ISO 9001の規格が改訂されると、企業にとっても仕組みや文書類の見直し、社内での教育訓練などにお金と労力がかかり大変だと思いますので、この動画を見ることで、皆様が早めに対策していただけたら嬉しいです。
1987年以降の規格改訂の経緯
ISO 9001というのは、皆さんご存知のとおり、お客様に満足してもらうための仕事のやり方を定めた国際規格ですよね。
このISO 9001は、1987年に初めてルールが定められましたが、その後も時々見直しや改良が行われており、世の中の変化や技術の進歩に対応できるようにしています。

最初のISO 9001は、軍隊での物資調達に使われる品質基準を参考に作られました。ビジネス活動の範囲に応じて、3つのバリエーションがありましたが、基本的には製造業に重点を置いた内容でした。そして1994年に最初の改訂が行われました。この改訂では、最終検査に頼るような管理方法ではなく、「あらかじめ問題が起きないようにする」という予防処置の考え方が新たに追加されました。
2回目の改訂が行われたのは2000年です。私がこのISOの世界に入った時は、この2000年バージョンでした。懐かしいですね。2000年の改訂では、かなり根本的な改良が行われましたが、このときの基本的な考え方は、今もあまり変わっていません。この改訂では、それまで3つあったバリエーションが1つに統合されたこと、プロセスを重視する内容に変わったこと、そして経営者の関与がより重視されるようになったことが主な特徴です。その後8年の期間があき、2008年に3回目の改訂が行われました。このときの改訂は、規格の言葉づかいをわかりやすくすることが主な内容でした。
そして2015年に改訂が行われ、このときの改訂版が、現在の(この動画を収録している2024年11月時点での)最新のルールです。2015年の改訂では、規格の構造、つまり章立てが他のマネジメントシステム規格と一致するように大きく見直されたほか、予防処置の発展型として「リスクに対してあらかじめ備える」という考え方が導入されました。
ところで、この2015年版には、2024年2月に細かい変更が加えられ、「気候変動を考慮すること」が規格内でより明確にされました。
そして、最後の改訂から10年以上大きな改訂が行われなかったのですが、次の改訂が2026年に予定されていると、ISOの専門委員会が公式に発表しています。
ISO9001改訂の流れ
ISO規格は、どのように改訂されるのでしょうか。これには決められたステップがあります。

まず、最初のステップとして、新しい規格の必要性が議論され、提案が出されます。提案が承認されると、ワーキンググループ内で詳細な検討が行われます。次の段階では、委員会での検討と承認が進められます。その後、より完成度が高まった段階で、加盟国による意見募集と投票が行われます。続いて 、加盟国によって最終確認が行われ、最終的に「国際規格」として発行されるという流れです。
ISO9001:2015の開発経緯について見ていきましょう。ISO9001の2015年版は、2012年6月に新業務項目提案(NWIP)が作成され、改訂がスタートしました。ワーキンググループでは、2012年11月に第一次作業原案が、そして2013年3月には第二次原案が発行され、検討が行われました。その後、委員会原案(CD)が作成され、さらに議論が進められました。2013年から2014年にかけて国際規格案(DIS)が提出され、ここで全加盟国の会員団体から広く意見が求められました。2014年10月にDISが承認されると、その後すぐに最終国際規格案(FDIS)が作成され、最終確認が行われました。そして2015年9月、ISO9001:2015として正式に国際規格が発行されました。2015年版の場合、最初の提案から国際規格の発行までは、3年3ヶ月くらいかかっていますね。
これに対して、現在進行中の改訂は、どこまで進んでいるのでしょうか。現在進行中の改訂プロセスは、2015年版とは少し異なっており、新業務項目提案や作業原案を作成していないようです。
2023年10月に、規格を改訂することが、結構急に決まったあと、2024年1月には委員会原案が作成されました。しかし第1次委員会原案は、この夏に廃案となり、現在は第2次委員会原案を作成・検討中だというステータスです。日本規格協会の情報によると、第2次委員会原案は、2024年9月には発行され、委員会メンバーでの検討が行われるとのことです。その後は2015年版と同様、DIS(国際規格案)とFDIS(最終国際規格案)へと進む予定で、最終的に2026年9月に新しいISO9001が発行される予定だと、ISO9001の専門委員会・分科委員会の公式ホームページで述べられています。
ただ、これは業界の噂話なので、鵜呑みにしないでいただきたいのですが、委員会原案が廃案となった経緯も含めて、どうもいろいろと揉め事があるんじゃないかという話が聞こえてきます。それが本当かどうか、揉めているとして何に揉めているのか、確かなことはわからないのですが、スムーズに行っていないのであれば、2026年9月という規格発行予定も、もしかしたら更に遅れるかもしれません。
ISO9001:2026では何が変わるか?(変更点について)
ISO 9001の次の改訂では、何がどう変わるのでしょうか?
あらかじめお伝えしておくと、この動画の収録時点(2024年11月)では、次の改訂内容はまだ何も決まっていません。しかし、ISOの最近の活動内容などを見ていると、次回のISO 9001の改訂に盛り込まれるかもしれないと考えられる点が2つあります。それは、「「整合の取れたアプローチ」(上位構造)への対応」と「IEC-ISO SMARTへの対応」です。

「整合の取れたアプローチ」(上位構造)について
最初の点について説明をしますが、「整合の取れたアプローチ」とか「上位構造」と言われても、何のことだかさっぱりわからないかもしれませんね。
「整合の取れたアプローチ」と「上位構造」とは、ISOの規格における用語や章立てを統一するためのルールです。もともと、ISOのマネジメントシステムには「ISO 9001(品質)」と「ISO 14001(環境)」という2つの規格しかありませんでした。この2つには共通する部分もありましたが、用語の使い方や章立てに違いがあったため、両方の規格に取り組む企業では混乱が生じることもありました。
そこでISOは、2013年にマネジメントシステム規格の共通ルールを作りました。これが「上位構造」、HLSです。現在のISO 9001とISO 14001で用語の使い方や章立てがほぼ同じになっているのは、この上位構造があるからです。
その後、ISOのマネジメントシステム規格には、情報セキュリティや労働安全衛生など、さまざまな新しい分野が増えてきました。そこで、より多くのISO規格に一貫性をもたせるために、上位構造、HLSをさらに整理・改善したものが2021年に作られました。これが「整合の取れたアプローチ」(Harmonized Approach)です。つまり、整合の取れたアプローチとは、上位構造の改良版というわけです。次のISO 9001の改訂も、この整合の取れたアプローチに対応する形で進められるのではないかというのが、有力な考え方の一つです。
IEC-ISO SMARTについて
もう一つの可能性は、IEC-ISO SMARTへの対応です。こちらも馴染みがないかもしれませんが、IEC-ISO SMARTとは、規格を「機械が読み取れる形」にして、AIなどのシステムが自動的に利用できるようにするためのISOとIECの取り組みです。
現在の規格は、本屋で冊子として購入したり、インターネットでPDFをダウンロードすることで入手しますが、この形式だとAIなどが規格をスムーズに読み取ることが難しいのです。そこで、ISOは、機械に読み込みやすい形式で規格を作成しようとしています。これは、世の中のデジタル化・効率化の流れに対応する動きとも言えます。
具体的には、例えばXML形式で規格を発行することが考えられます。これにより、規格の改訂があった際に、その改訂内容を反映したマニュアルや文書をAIが自動で、即座に作成してくれる可能性も出てきます。私のようなコンサルタントの仕事が不要になってしまうかもしれませんが、ISOはそうした未来を目指しているようです。したがって、
新しいISO 9001も、このIEC-ISO SMARTに対応する可能性があります。
ただし、整合の取れたアプローチもSMARTも、規格の「形式」に関する変更に過ぎません。規格の中身そのものがどうなるかについては、今後の委員会での議論や、加盟国の会員団体での話し合いが進む中で見えてくることになるでしょう。